本を書くことは恥をかくことだー中尾佐助ー

私は、本を書くことは恥をかくことだと思っている。まちがいがどうしてもまぎれ込むし、認識不足や足らないところが出てくるものだ。こういう意味で他の書を見ると、欠陥はずいぶんあるのが常だ。しかし欠陥をおそれ、完全無欠を追求すれば、それはもう、ものをいうことをやめるほかあるまい。どうせ学問と知識の世界は、はじめからなんらかの意味で誤りのあるものを積みあげ、修正につぐ修正を重ねて、だんだん良いものに仕上げてきた歴史の上に成り立っているのだ。私は、学者は自分の前説を自分でどんどん更新していくのが使命だと思っている。それができない人は停止してしまった人というべきだろう。
                −中尾佐助「栽培植物の世界」の¨あとがき¨ー