2018-11-01から1ヶ月間の記事一覧

水ー異国美味帖(塚本邦雄)ー

日本の水道の水で不足を洩らしている人々でも、たとえば欧州ラテン諸国を歴訪するともっとげっそりする。……。何しろ、彼らは、水の代わりに葡萄酒を飲むので、水はシャワー用、掃除用くらいにしか考えていないのだ。水を欲しがるのは、日本人とアメリカ人と…

mizu

パリでレモン・テイーをー異国美味帖(塚本邦雄)ー

パリでレモン・ティーを飲もうとしてレモンを頼んでも、知らない振りをする。「シトウロン」と言わないと一日待とうと二日待とうと持って来てはくれない。 ところが、シトロンとレモンは全然別の柑橘である。学名がキトゥルス・メデイカで医薬用に用いた品種、レ…

西瓜嫌悪症ー異国美味帖(塚本邦雄)ー

西瓜が嫌いである。大嫌いで、隣々々席から漂って来る匂い(臭い)にも、食欲を喪失する。ものごころのついた頃から、かたくなにこれを拒み、五人の家族から一人だけ離れて、西瓜の饗宴の席では真桑瓜などあてがわれていた。親族に一人、母の弟にあたる人物が…

「制度としての退官」ー梅棹忠夫ー1993年6月(朝日新聞)

梅棹は「退官」を民族学で用いる「王ごろし」の現象になぞらえており、「王ごろし」とはアフリカその他でみられた慣行で、フレイザーの『金枝篇』にくわしく出ている。それは「神聖なる王の弑逆」と称され、基本的事実は、王がすこしでも衰弱のきざしをみせると、容…

感動コンテンツに毒された社会

堀越英美著『不道徳お母さん講座』への寺尾紗穂の書評のタイトルに刺激されたエッセイである。そういえばTV番組に¨感動コンテンツ番組¨がいかに多いことか。「クールジャパン」、「和風総本家」、「人生の楽園」、「世界!ニッポンに行きたい人応援団」、「…

脈博の上にかさなり刻みいる時計OMEGAの小月面ー塚本邦雄・百珠百華ー

腕時計の盤面を「小月面」と見たこの眼の、底知れぬ視力ゆえに、今一つの腕時計をも亦「星なる時計」として、畏れかつ愛したのであらう。男子らが犇めきあふ理由も、その、掌中に収め得る小惑星としての時計の、めくるめく、かつ痺れるやうな宇宙感覚ゆえで…

火葬女帝持統の冷えししらほねはー塚本邦雄・百珠百華ー

銀壺の中の白骨が鳴った。がさごそと鳴つたらうか。二上山の方角から腥い風が吹かなかったのが、せめてもの幸、この怖るべき野心家の骨は鐵の壜にでも格納して地中深く埋めておくがよい。せめてもの幸は今一つ、思ひに思つて位を譲つた軽の皇子文武帝が、五…

外科医はまどろみぬ新しき血痕をゆめみむためー塚本邦雄・百珠百華ー

手術台上で流された鮮血は、空気に触れた瞬間に古ぶ。その危い鮮度を鋭く察知せぬ者には、この「新しき血痕」の無慚な美しさは、到底理解できないだらう。血を見ることへの恐怖は、女性においては、男性よりも遥に薄く、麻痺しているとも言はれる。「流血の…

「永世、中立」−塚本邦雄・百珠百華ー

中立、言うは易からう。だがこれを保つのは、綺麗事では済まない。永世中立のスイスは、国民皆兵の掟がある。二十歳から五十歳までの男は、年齢に応じて、一定期間の軍事訓練を受けねばならず、彼らは常に自宅に銃器と弾薬を備えておく義務を持つている。あ…

終世めとらぬわが兄ー塚本邦雄・百珠百華ー

獨身と既婚が浄・不浄を分つ基準にならぬことは自明であらうに、人は前者に、うちつけにカトリックの神父などを聯想して、生涯不犯を神聖視する。神父の大本山ヴァテイカンが世界一の春画の寶庫ときけば、そのあらたかさもけし飛ばうし、そのかみの免罪符売の…

萬歳の声ー塚本邦雄・百珠百華ー

あの掛声が悪寒を催すほど嫌ひだ。強ひられた合唱の一瞬も、私は唇を動かすのみで、心中は他の呪を繰返している。……私は戦争中の「萬歳」には、なにゆえか「犯罪!」に濁点を加へたやうな気がしてならぬ。……新婚の二人が旅立たうとするのを、嫉妬と羨望と憐…

紅葉狩りとアルベール・カミユの言葉ー天声人語2018/10/31ー

こぞって紅葉狩りに出かけるのは、日本ならではかもしれない。しかし美しさをたたえる気持ちはどこにでもあるのだろう。フランスの作家アルベール・カミユが残した言葉がある。「秋は2度目の春であり、すべての葉が花となる」

イチョウのたくましさー天声人語2018/10/31ー

円地の言うたくましさは、原始から変わらぬ姿に由来するのかもしれない。イチョウは2憶年ほど前から地球に存在しており、「生きた化石」とも言われる。あの扇のような形の葉に、原始植物の特徴が残っているという……かつては「銀杏」ではなく「公孫樹」の字…