萬歳の声ー塚本邦雄・百珠百華ー

あの掛声が悪寒を催すほど嫌ひだ。強ひられた合唱の一瞬も、私は唇を動かすのみで、心中は他の呪を繰返している。……私は戦争中の「萬歳」には、なにゆえか「犯罪!」に濁点を加へたやうな気がしてならぬ。……新婚の二人が旅立たうとするのを、嫉妬と羨望と憐憫と軽侮の錯綜する眼で取囲み、花婿を引摺り出して胴挙げの上叫ぶ「萬歳」、あれこそ堕ち果てた二十世紀の萬歳。