水ー異国美味帖(塚本邦雄)ー

 日本の水道の水で不足を洩らしている人々でも、たとえば欧州ラテン諸国を歴訪するともっとげっそりする。……。何しろ、彼らは、水の代わりに葡萄酒を飲むので、水はシャワー用、掃除用くらいにしか考えていないのだ。水を欲しがるのは、日本人とアメリカ人と蛙だと言って、嘲笑している彼ら、そのワインのがぶのみのせいで、三十を越えると、殿様蛙そっくりのプロポーションに成り果てる。因果応報か。


 その点、スイスを旅すると、どこへ行っても、岩清水のような水道の水が。思う存分飲めて嬉しい。日本からたずさえて行った緑茶も、スイスでやっとおいしく飲める。だが生水は飲めないあの仏・伊・西・英あたりの水道を料理調理には、あのままで平気で使っているのだから、ずい分無神経だ。