草も木も、みんな泣きよります一水俣病胎児性患者の存在を立証した、原田正純さんを悼む一

原田さんは、企業・医学界・行政・司法を相手に、水俣病患者によりそい、支え続けた方で、二人の小児患者をもつ母親から「おこられて」、胎内には毒物がはいらないという医学界の当時の定説を覆した人です。水俣育ちで、『苦界浄土一わが水俣病』の作者、石牟礼道子さんが、原田さんの追悼文を書いています。一朝日新聞2012/06/19一


 最近はこんなこともよくおっしゃっていた。

「この症状はただの病気じゃなかですもんね。殺人ですよ。公害のなんのちゅう名前をつけて、原因ははっきりしとります。チッソを公の機関と思ってる人たちがいつんでしょうか。いるんでしょうね。これはれっきとした犯罪です。これを取り締まらずして他の個人犯罪ばかりを追っかけるのは腑に落ちんですよ。水俣の被害者は、こんな世間に、どれだけ遠慮していると思いますか、そうでしょ。家に訪ねて行っただけでそれは喜びなはりますよ。あの人たちは、人のなさけに飢えとりますよね。声かけただけで大恩を受けたと思いなはる。なんというか、じつに純な心をお持ちの方が多かですよ。みんな貧乏でね」

 貧乏というや涙ぐみ、ふいに声を落とされた。

 あの牧歌的な先生の胸の底に、直接ふれることはもう出来なくなった。