吉本隆明の読み方ーレーニン『国家と革命』ー
吉本隆明が、朝日新聞2011年3月20日の読書欄に、レーニンの『国家と革命』について、若年の私が見落としていた、瞠目すべきことを書いている。
レーニンは、ロシアに本当の意味でマルクス主義の社会が成立するなら、その時は共産党は解散しようと『国家と革命』の中 で言っています。共産主義の相互扶助、それが成就したら党を解散しようというのがレーニンの考えでした。そして年をとっ たレーニンが病に伏し、妻が看病しますが、スターリンはレーニンに対し、お前の妻は党の公事をないがしろにしていると批 判します。そこから二人の対決が始まります。家族の看病や家族の死といった切実な私事と、公の職務が重なってしまったと き、どっちを選択することが正しいのか。東洋的、スターリン的マルクス主義者であれば、公を選ぶのが正しいというでしょ う。ところがマルクスは、そうではないことを示しています。
マルクスは、唯物論でなんでも白黒つけちまえという論者たちとは異なり、肉親が死んだときの寂しさ、闘病のつらさといっ た切実なことは、公の利益のよさといったことと別のものだということを「芸術論」で言っています。この「私」をとるのがマル クス思想の本流であり、それは比較や善悪の問題でもなく人間の問題なんだ、というのがレーニンの立場です。真理に近いの はどっちだ、ぎりぎりの時にどっちを選ぶんだとなれば、レーニンの立場を選ばざるを得ないでしょう。