土人発言府知事看過

土人発言府知事看過ー2018年12月03日(朝日新聞・夕刊)ー

津嘉山さん「心の奥底に差別」

沖縄で生まれて20歳のとき、船で2泊3日かけて上京。以来、東京で俳優の道を究め、声優としても活躍する津嘉山正種さん(74)。基地問題も含めて、いまの沖縄をどんな思いで見つめているのか。ふるさとへの思い、芝居にかける思いを聞きました。
 今年7月、故郷の那覇市で「人類館」を上演しました。15年ほど前から続けている一人朗読劇です。
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 人類館は、1903年に大阪であった内国勧業博覧会で、沖縄やアイヌ、台湾の人たちを生身で展示し、見せ物にした実際の出来事が題材で、テーマは差別です。本来、人類館をやらなくても済む時代であればやりたくないのですが、やり続けなければならないと思っています。
 一昨年、沖縄本島北部の高江で、大阪府警の機動隊員が米軍のヘリパッド建設に反対する市民に「土人」と吐き捨てる事件が起きました。その後、大阪の府知事さんがそれを看過する状況があり、「ああ、100年前と変わっていないな」と感じました。
  本土復帰前の65年。20歳の僕は那覇から船に乗り、2泊3日かけて上京しました。高校を出て沖縄の放送局にアシスタントディレクターとして入りましたが、そうした間に基本的な演劇を東京で3年くらい勉強したいと考えたからです。
 20代のころ、若手劇団員数人が居酒屋で芝居について議論していた時、輪の外から先輩が口を挟んだので「今はあなたと話していません」と言ったら「馬鹿やろう、何言ってんだ沖縄が」と返されました。博識で知られる、家は床が抜けるんじゃ、というくらい本だらけの方でしたが、どうしてそういう発言をするんだろうと考えてきました。
 先輩は続けて「失言、聞き逃してくれ」と言いましたが、「教えてくれ。あなたの心の底に眠っているのは一体何なのか」と問いただしたい思いでした。振り返れば、「土人」発言の若い警察官と変わらない何かが、心の奥底に巣くっていたのではないでしょうか。
 県民が辺野古移設に反対する知事を選んでも、「辺野古が唯一」と政府はごり押しする。「沖縄県民の理解を得ながら」という言葉も空虚に聞こえる。苦渋の歴史をずっと続けさせていこうとしていて、それを和らげるために振興予算を付ける。これほどあからさまに沖縄を馬鹿にしたやり方はないんじゃないですか。根底には、沖縄は日本ではないんだという意識があるからと僕には思えてしまう。
 ただ、何らかの差別意識は僕も含めてみんなにあるとも思う。差別する心とは何なのかと自問しています。
 国内の米軍基地の70%が沖縄に集中しています。仮にこれを47都道府県で均等にしてもらえませんかということになったら、各地で「自分の所は嫌だ」と反発が起きるでしょう。基地を平等に負担して初めて日米安保を享受できるのではないでしょうか。
 僕は東京に出てきて「沖縄人だ」と言えなかったころがありました。でも今は堂々と言える時代になりましたが、沖縄について「人がいいねえ。癒やされる島よねえ」なんて無責任に言われると腹が立つ。「レンタカーでも借りて中部あたりに行ってみな。カーナビに広大な米軍基地が灰色で現れるよ。そういう状況に沖縄が置かれているんだよ」と言いたくなります。
 12月に東京で「象の死」という芝居をやります。戦時中の動物園から象が逃げ出したら大変だという理由で、動物を全部殺せという命令が出ました。獣医師の私は一体何なんだ……。そんな葛藤を描いた話です。チラシには象の目を大きくあしらいました。
 沖縄では今、何を言っても、抵抗しても、政府の方針に異を唱える人を知事にしても押しつぶされちゃうという現状があります。戦争という人間の傲慢(ごうまん)の中で何の罪もない象が殺されていった。私はこの象の目が、沖縄の人たちの目につながる気がするんです。僕は役者として人間の心の奥底に根深く残るものをあぶり出し、表現する仕事をライフワークにしていきたいと思っています。(聞き手・伊藤宏樹
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 つかやま・まさね 那覇市出身。65年劇団青年座に入団。映画やドラマ、ラジオなど声の出演も多数。12日から東京・阿佐谷で舞台公演「象の死」にも出演。
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